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何が殺人を正当化するか?映画『アクト・オブ・キリング』を見て

      2015/07/07

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映画公開から気になっていた映画、『アクト・オブ・キリング』のDVDを借りて見た。

インドネシアで1960年代に起きた共産党狩り。その被害者は100万人とも言われていて、その中心的人物は何人も殺しておきながら今も英雄として生きながらえている。彼らに当時の虐殺の再現をお願いし、それをまとめたのがこの映画。

これまでいくつかの戦争・紛争・内戦の映画を見てきたけど、キャストが虐殺をおこなった加害者本人というのは異例。普通、そんな大量に虐殺をおこなった人は裁判にかけられて刑務所に入ってたりするから、その人に演技してもらうなんてできない。なぜこのような異例のキャストになったかというと、最初は被害者側に取材しようとしたが、インドネシアでは50年たつ今でもその話題にふれるのはタブーとされ、当局から被害者側への取材を禁止された撮影班は、加害者側に取材をするという形をとり、この映画ができたのだそう。

最初は意気揚々と殺人方法を説明していたリーダーが、被害者側の役を演じてから様子が変わっていく。序盤の嬉々とした姿はまったくなくなり、最後は精神的に弱りまくっていく。

彼らは勝者だから、その行動が肯定されてきた。勝てばどんな虐殺も肯定される。何万人も死んだ原爆の投下も、テロ一掃のもとに関係ないたくさんの住民を犠牲にすることも。おそらく、これまで彼らはこの虐殺については深く考えることなくすごしてきたのだろう。だから、このドキュメンタリーで現実と向き合わされて人格崩壊寸前にまでなってしまう。

ふと、テロに対峙する米軍ってこんな気持ちなのかなと思った。自分たちに都合の良い「正義」のもと、人を容赦なく殺す。相手の思想が悪だから、彼らが死ぬのは当たり前?

EUに加盟するには、死刑制度を廃止しなければならない。理由は、どんな罪を犯した人でも尊厳があるから、だそう。だから、EU加盟国は死刑制度を廃止している。でも、どの国も軍隊を持ち、正義とか自衛の名の下に他国に空爆したり派兵したりするのって、思いっきり矛盾してないか?裁判で人を殺すのはダメだけど、戦争で人を殺すのはいいの?

 

そういえば、リベリア内戦を描いた『ジョニー・マッド・ドッグ』も演じていたのは本物の元少年兵。あれはドキュメンタリーじゃないけど、『ジョニー・マッド・ドッグ』と『アクト・オブ・キリング』は、どちらも見た後に似たような感覚が残る。

人間の見たくない部分をつきつけられ、救いもない。
最後まで救いのない映画は、見ていて気分が悪くなる。

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