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終戦関連本『妻と飛んだ特攻兵』

      2015/08/05

終戦を過ぎた8月19日、ロシア軍に向かって特攻兵として飛んでいった谷藤徹夫という男性の話。
しかも、その特攻機には女性も同乗していたという。

これは読んで良かった本。
去年、戦争跡地を訪れるのが趣味だという話を前職の同僚にしたら、無言でこの本を渡され、やっと読み終えた。

333ページ!!!

読み終わったのが今年終戦70年だったというのは、偶然です。

本の内容を簡単にまとめると、
8月15日の終戦をすぎた8月19日、ロシア軍に向かう特攻兵がいた。特攻はそのほとんどがアメリカの空母に向けておこなわれていたので、ロシアの陸軍に向けておこなわれるというだけでも異例だし、しかもその特攻機には女性も乗っていたという。機体に女性を乗せるのは重大な軍紀違反であるため、この特攻隊の存在はしばらく認められず、最初は靖国に合祀もされていなかったそう。谷藤らがなぜロシア軍に向かって特攻となろうとしたのかを、生い立ちから追っていくという本。

 

読み返すとまた違う印象になりそうだけど、1回目読み終わっての感想をひとまず。

・かなり冷静に、事実に基づいて描写されている。本のかなりの部分を時代背景の説明にさいているが、そこを理解しないと当時の空気感やら人々の気持ちが理解できない。世界史選択だったけど、大部分を忘れてた私にはちょうどよかった。

・今も日本にある、科学的根拠の一切ない根性論、私は大嫌いなんだけど、それは戦中から受け継がれてたんではないかと思われる部分。

東條はこのように何事においても精神第一とする持論をひと通り述べ、航空戦の場面においては特に精神力が勝敗を決すると力説して訓示を締めくくった。(中略)航空という最も科学的に戦略を立てなければならない分野の士官候補生たちは、相変わらずの精神論を叩き込まれ、東條の言葉を信じ切った。(p.88)

戦争が終わっても、そのメンタリティはさほど変わらなかったんだな。
精神力の強さは確かに大事だけど、仕事ができるかどうかは、ロジカルなベースがあってこそですよね?

・フィリピンのレイテ沖から特攻隊が始まるんだけど、その過程について。
最初の特攻隊の実行役を任された大西という人物が、特攻の創始者という扱いになっているらしいけど、その前から海軍でなんらかの決定があって大西はそれを実行したにすぎない。じゃあ、決定したのは誰なの?ということになると

海軍中央ではどのような経緯で特攻作戦が決定されたのか――それを明らかにする証言や史料はないのである。海軍首脳は特攻に関して戦後に口を噤み、開始の経緯を明らかにしなかった。(p.226)

こんな責任、誰も負えないし、負いたくないってことだよね。末端は自分を犠牲にしてまで国を守ろうと必死だったのに、上層部はずいぶん薄情なんだな。

・たびたび登場する楠公(なんこう)について。

楠公とは言わずと知れた南北朝時代の武将・楠木正成である。後醍醐天皇を守護するためわずか七百の手勢を率いて数万の足利尊氏の大軍を迎え撃ち、敗れて自害を遂げた正成は、皇国教育の中で「天皇を守護するため、勝目の無い戦いに死を覚悟して挑んだ忠臣の鑑」として讃えられ、日本兵の模範とされていた。(p.232-233)

こんな感じで、特攻死すると軍神として崇められ、特攻に志願する雰囲気が醸成されていったらしい。
でも、普通に考えて、勝目の無い戦いに挑んで自害しちゃったら、天皇は誰が守るわけ?天皇を守れてないっていう結果をろくに見ないで、プロセス重視しちゃうとおかしなことになる。自分を犠牲にすることが美徳みたい教育は、おかしいでしょ。

・大西の発言がめちゃくちゃな件。
以下、特攻によって日本は勝てるのかと新聞記者に質問されたときの大西の発言。

「いくらアメリカでも日本国民を根絶してしまうことはできない。攻めあぐねれば、アメリカもここらで和平しようと考える。そこまで持ち込めば取りも直さず、勝ちとはいえないまでも負けにはならない。国民すべてが特攻精神を発揮すれば、たとえ負けたとしても、日本は滅びない、そういうことだ」(p.257-258)

戦況は不利なのに、相手から和平を持ちかけさせることができると思ってるのが、意味不明。たまに、人間はほんとにちっぽけなプライドのために生きてるんじゃないかと思ってしまう。

・終盤のロシア兵の横暴が強烈に印象に残った。
以下、葛根廟(かっこんびょう)事件の描写を少し。

約二千数百名が悲鳴を上げて一斉に走り出すと、ソ連軍は草原を逃げ回る避難民の群れを追い回した。次々に轢き殺されていく死体がキャタピラに巻き込まれて戦車の後方から飛び出し、宙に舞って草原に放り出された。(p.294)

これだけでもおぞましい光景だけど、さらに続く虐殺、略奪、強姦の描写は、心の負担が大きすぎる。
ページ数にしたらほんの10ページくらいだけど、これだけで一気にロシアのイメージダウン。もしも日本の歴史教育がここだけにフォーカスしてたら、国民の大多数がアンチロシアになってたと思う。別に、このロシア兵によるこの事件を闇に葬れとは言わないけど、偏りのない教育ってほんと大事。

・神州不滅特別攻撃隊
これは谷藤徹夫たち11名が自分たちの部隊につけた名前。

神州とは、日本は天皇の統治のもとに神武建国から明治維新を経て発展を遂げてきた「神の国」という意味である。自分たちの亡き後も「神の国」日本は永遠に不滅であるという日本軍最後の特攻隊員の思いを隊名に込めたのだ。(p.298)

上記のロシア兵による満州にいた一般の日本人への虐殺を見た彼らは、軍の武装解除命令を無視して8月19日に特攻隊として散る決意をする。活字でちょっと読んだだけで気持ち悪くて吐きそうになるくらいだから、実際に虐殺現場を見た人の報告を聞いたら相当な怒りがこみ上げたことは簡単に想像できる。自分を犠牲にして何かを守ろうとすることを国全体が正当化してた時代に、もしも自分が徹夫の立場だったら、どういう選択をしてたんだろう。特攻以外のましな選択肢ってあったんだろうか。

ふと、本のタイトルで検索してみたら、なんと偶然にも8月にドラマ化されるようです。
ロシア兵が満州に攻めてきたところなんか、どうやって映像にするんだろ。

本を読んでる間、遊就館の「靖国の神々」のコーナーに掲示されてた何千もの顔写真が頭をよぎった。
できるだけ長く秩序のある社会で暮ら続けたい、それだけです、私の願いは。秩序がなくなると、力の弱い女性は困るから。

 

節目の年に、何か戦争関連の本を読みたいという方には、ぜひこの本をおすすめします。


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